洞峰公園問題の解決方法6
- 酒井泉
- 2024年8月25日
- 読了時間: 12分
Ⅰ.洞峰公園 を真の 「自然公園」 に
洞峰公園を真の「自然公園」 として維持・管理することで、自然 環境を守り、県と市の負担を軽減 して、市民よし、つくば市よし、茨城県もよしの、三方よしの解決策が可能です。
1.「庭園公園」ではなく
「自然公園」 で問題を解決
洞峰公園問題の 対案として考えられるのは、 「自然公園」 としての 管理と 利用で す 。現在も 「自然公園」 ではないかと言う 意見 もある と思います が、洞峰公園の現状は、偕楽園や兼六園の様な大規模な「庭園公園」で す 。「庭園公園」の維持管理には膨大な費用がかかり ます。 多くの観光客が集まる公園でないとその維持は 難しいのです 。県が問題視して いる のは、 洞峰公園の年間 1 億 5 千万円 の維持・管理費 で、その半分の 7500 万円が 公園 緑地の管理費 です 。この多額な緑地の管理費に問題解決のカギがあ ります 。
実は、市民のための 「自然公園」 ならば、維持管理のための費用は庭園公園に比べて著しく安くて済むので す 。 その根拠を 次 に示します 。
①「自然公園」 の場合の管理は 、 庭園としての管理ではなく、里山 や 草地として管理 します 。
②芝生の雑草取りは行わず、 芝生 ではなく 草地として管理 すれば、 年間数回の草刈りを行 えばよく 、刈った草は敷 地 外に 持ち 出さずに 公園内で 土に還 せば費用もかかりません 。
③一部に全く 手を加えない灌木帯を設け、野鳥のサンクチュアリ(聖域)帯を造る のもよいでしょう 。ロンドンのハイドパークに実例があり、大都会の真ん中であるにもかかわらず様々な種類の小鳥が集まって来て、鳥の声が喧しいくらいで す 。
④樹木の管理は、高いところの枝の 剪定は一切行わ ず、 新たな植樹と間伐のみとします。
⑤間伐木は森の中で、数年をかけて土に還すことが出来ます 。 この過程で、 様々な種類のキノコや、カブトムシ、 クワガタムシ、カミキリムシ、 綺麗なタマムシ玉虫 などが大量 に 発生 しますから、子供たちは大喜びです 。これまでは 、剪定した枝や刈り取った草を外部に搬出し、多額の費用をかけて昆虫 の卵や 蝶の蛹を焼き殺してい たのです 。
⑥間伐の選木や 、草刈りの時期や回数をコントロールすることで、多様な 種類 の樹木 と野草、小鳥や昆虫の宝庫になり、バードウォッチングや虫の鳴き声、蝶やトンボの飛翔を楽しめ る 「自然公園」 になります 。
こ の様 に、 鳥や虫たちや自然の樹木や野草と共生する 「自然公園」 の管理は、庭園型公園の管理の 10 分の1 くらい で済 むので す 。一番 費用 がかかるのは、芝生 の雑草取り と樹木の剪定、刈り取った 雑草 や間伐した木材 を搬出しての 焼却処理だからで す 。
2.「自然公園」 型 の 緑地管理の実例
「自然公園」 の管理の実例として、小規模で す がつくば市春風台 に、( 景観緑地 と呼ばれている) 宅地に沿っ て 奥行 12 m長さ 100 メートルの緑地帯が 、 全部で 16 面あ ります。自然の 草地にはベニシジミやルリシジミなどの ゼフィルスと呼ばれる小型の 蝶が舞い、秋にはスズムシがたくさん鳴いてい ます 。管理をサボった家庭菜園の灌木の下でカルガモが雛を育てて 、 しっかり者の母鳥とかわいい雛たちが、 近くの用水池まで行列で歩いて行った こともあります 。 庭の木にかけた巣箱ではシジュウカラの夫婦が 11 羽もの雛を全部無事に巣立たせ まし た。 住宅地の真ん中であるにも拘わらず、 それだけエサが豊富 で自然が濃いのです 。
この緑地帯の管理費は、1平方メートル当たり年間50 円で す 。洞峰公園の総面積は 20 ヘクタール です から、同じ管理方法なら年間 1000 万円で済む計算にな ります 。 (洞峰公園の場合は、 20 ヘクタールのうち池と建物の面積が半分くらいあるので、緑地の面積は半分の 10 ヘクタール位です。 これで年間の管理費が 7500 万円ということは、1平方五メートル当たり年間 750 円もかけている計算になります。「自然公園」の管理費の 10 倍以上です。)
3.洞峰公園 の生態系 は隣接する 研究施設 の森と一体
洞峰公園に隣接して、 産総研や気象研の 拡張用地の緑地がありますが、これらの緑地は下草刈りをする程度で概ね「自然公園」 と同じ様な管理がされています。
研究施設の拡張に 使用するまで は 、 (無償で 借り受けて市民のための 「自然公園」 として暫定的に活用 すること は可能だと思います。 つくば市の中心部に 大規模な本物の 「自然公園」 が出来れば、それはつくば市の枠を超えて貴重な存在となって、 広く 首都圏 から 上質 な 来客 を 望める 可能性 が あります。
4.茨城県の当初の方針
ここで、あらためて県の 当初の方針 を整理してみ ましょう 。
①県が出している費用は、年間 1 億 5 千万円
半分が建物の管理費で、残り半分が緑地の管理費で ある 。
②業務委託で、年間 6000 万円の経費が節減できる。
③グランピング施設に使用するのは、現在使われていない野球場の部分だけである。
④公園と施設は今のまま保存される。
⑤引き続き、県は年間 9000 万円を支出する。
⑥つくば市の費用負担はゼロ 円 である。
この 提案 に 何故 つくば市が反対するのか分からない、と言うのが茨城県の言い分で した 。
5.つくば市と 茨城県の対立
これに対して、五十嵐市長はグランピング施設による公園環境の悪化を理由に県の方針に反対し、グランピング施設を阻止するために都市計画の変更を拒否する姿勢まで示したことから、県と市の議論がこじれてしま いました 。その後、大井川知事が洞峰公園 全体 をつくば市に無償で譲渡してもよいとする案を示したことから、 五十嵐市長は 1 月 31 日の記者会見で、市が無償で県から譲渡してもらうのがベストであるとの見解を示し まし た。
6.パークPFI (グランピング施設)受け入れか 、 市への 無償 譲渡 か、二 者択一 がもたらす 市民間の 不毛な対立
先日 行われた説明会で 、次の様な提案をしました。
つくば市が緑地の管理を引き受けて「自然公園」 として管理をすれば、県は毎年 7500 万円の 緑地管理の 経費が節減できるのだから、 年間 6000 万円の収益を見込んだパーク PFI の事業を 無理に やらなくても 、これまで通りの管理ができるのではないか 、 と 茨城県に提案しました。 また、つくば市の負担も年間で1000 万円から 2000 万円 の負担 で済むはずだ から、無償譲渡で年間 1 億 5千万円も 負担する より も、 この方がよいのではないか 、 と つくば 市にも提案 を しました。 県は当初予定した経費の削減が 十分に 達成 できて、洞峰公園の自然環境は これまでより良くなり、 無償譲渡を受けた場合よりもつくば市の負担は 著しく低減できるから、県よし、 つくば市 よし、 市民 よしの、三方よし の案 となる はずです。
ところが、県の担当者は「PFI (グランピング施設 を 受け入れか、つくば市が一括譲渡を受けいれるかの 二 者択一 しかない」と言うのです。五十嵐市長も、県から無償譲渡がベストであると言って 、 「 PFI (グランピング施設)受け入れか、市が 無償 譲渡を受け入れるかの 二 者択一 」を市民に迫る様です 。
県もつくば市も「無償譲渡」と言っていますが、取得の費用が無償であっても 、今のままでは県と同様に 年間 1 億 5 千万円 の 維持のための 費用負担が発生 します 。 建物は建築後 40 年経っていますから、移管時に県が修繕してくれたとしても、将来の維持費用はもっと高くなることが予想されます。 公園の 施設 を守ることは 重要 で す が、つくば市 民 の費用負担を考えると 、老朽化したハコモノをつくば市が引き継ぐことが、 本当に市民のために良い方法なのか疑問 です 。
毎年の1 億 5 千万円 の出費は、 20 年間で 30 億円、 40 年間で 60 億円の出費です。つくば市の 場合は 借入金を 20 年 で 償還 しています から 、 毎年 1 億5 千万円の返済金があれば、現在の時点で 30 億 円から 20 年間の金利を引いた額の 資金 を調達できます。 これだけの お金があれば市民のために いろいろなことが出来 るから、 毎年 1 億 5 千万円 の出費 は 市民生活に 大きく影響します 。いくら洞峰公園の自然環境を守るためとはいえ、つくば市民の同意を簡単に得られる 金額 では ありません 。 「使われなくなった野球場のグランピング施設を止めるために、老朽化したハコモノを引き受けて、年間 1 億 5 千万円 もの 負担しなければならないの か?」 、「それだけのお金があれば、もっと 子育て支援 や 福祉に 廻せ 」等々の 議論になると、市民同士が対立して(させられて)、結局は不幸な結末になりかねません。
7.無償譲渡の前に 、 自然環境を守る原点に 立ちかえって考える
洞峰公園 の 問題が起きる以前から、つくば市の公園の管理の在り方は問題 だと 思って いま した。庭園公園なのか 「自然公園」 なのか目的が曖昧 で、 無駄なお金をかけて自然を壊してい たからです 。 ロンドンは大都市の中に大きな公園が幾つもあることで有名ですが、これらの公園は元は王家(貴族 の 狩猟地 でしたから 「自然公園」 としての色彩が強い 公園管理がされています 。つくば市の場合は、元の農業用 水 のため池 と薪炭林が公園になっていますから、 「自然公園」 としての管理がふさわしいのです。
そして、実は 「自然公園」 としての管理は、庭園公園に比べてビックリ するほど経費が掛からないのです。政治的な宣伝 を排して 、自然環境を守ると い う原点に立てば、市民よし、つくば市よし、県もよしの、三方よしの解決策が 可能になります 。
民主主義の強みは、皆で話し合って一番良い方法を見つけることです。 今一度、市民と市役所と県で話し 合 えば 、三方よしの解決 策 が 可能 です 。
Ⅱ.つくば市の生態系を守る に は
1.洞峰公園を もっと広いエリア で 考える
洞峰公園が 貴重な自然資源であることは言うまでもありませんが、生態系として管理する場合は、隣接する産総研や気象研の森と一体で考える必要があります。 産総研や気象研の森は下草刈りを行っている程度で自然公園の管理に近い状態 で 維持されています。間伐はもう少し強く行って林 内 に部分的に光が入る状態の方が、より多様な生物が暮らせる森になります。この森に暮らす生き物にとって洞峰池の存在は 重要 です。できれば部分的にでも護岸のコンクリート壁を撤去して、自然の水辺にするともっと生物の多様性はアップします。さらに流域の小野川と の間を、 暗渠では な く 自然の水路で結ぶと、大雨の時に霞ヶ浦から小野川を経て 種々の魚が遡上して来て洞峰沼で生息する様になるのですが、これは無理な様です。(現在、洞峰沼と小野川は埋設された雨水管でつながっています)。
産総研や気象研の森は研究施設の拡張用地でもあるので、将来は建物の用地として使われる可能性もあり、そうなった場合でも 生物 の多様性が保たれる様に、日頃から必要な手を入れて自然環境に開発に対する「耐性」を持たせておく必要があ ります 。それにはそんなにお金はかかりません。
2.高エネ研南用地は 「自然公園」 として維持す る
つくば市の生態系を考えた場合、 研究学園都市北部の高エネ研南用地 も重要で す 。東大通り を挟んで東部の若森池と 広大な 若森地区の平地林(民有林で保全の保証はない)と一体となった森で、樹齢 70 年以上の 多様な樹木がつくる 自然の森で す 。この森を 適宜 間伐して 、 下草刈りを 毎年 行えば、お金をかけずに 規模も質も 洞峰公園以上の 「自然公園」 にな ります 。本来は、つくば市と研究学園都市の発展余地のための緑地 として保全すべき土地 なのですが 、つくば 市役所 は この貴重な緑地を 倉庫業者に売り 飛ばして 、緑を 完全に破壊しようとしているのです。 (つくば市の都市計画課は「緑を生かしたまちづくり」などと言っていますが、実態を 隠蔽 した全くのウソです)。
売却の主な理由は、毎年3000 万円の利払いが市の財政を圧迫するというので す から、今の洞峰公園 のパーク PFI を阻止するために、毎年 1 億 5 千万円支出するという つくば市の 方針 は全く筋が通りません 。そして、購入した業者はつくば市の開発許可が下りれば
今年の 10 月から伐採・伐根を開始すると言っているのです。これは、つくば市と研究学園都市の 将来の発展余地と自然環境の両方を 同時に 失う 愚行 で す。洞峰公園の自然を守れ
と言っている市民の皆さんも、 今からでも 声を上げて 、 つくば市の 未来 と 自然 を守 ってください 。
3.ほかにもある地元住民が守った貴重な自然
①研究学園駅
北平塚保健保安林
②桜地区
柴崎保健保安林
③豊里地区
ゆかりの森
④桜地区春風台東
上境保健保安林
これら の緑地 は、TX沿線開発の際に、住宅用地や商業用地として開発される予定でしたが、地元住民 が 祖先から受け継いだ森を守る意思によって、 買収を急ぐ 行政との 熾烈 な 議論の末に 保全された緑で、 現在は 都市住民の健康促進のため の 県指定の保健保安林として永久保全され ています。 その総面積は 洞峰公園の 1.8 倍の 36 ヘクタールもあります 。開発区域に隣接した開発適地であるにも拘わらず 、地主の意向に関係なく開発が禁止されている のに 、その管理は地主の責任になっています 。 1 ヘクタール当たり年間 30 万円の管理費が補助されれば、下草刈りと間伐を 十分に 行うことが出来ます。特に雑草が繁茂する日当たりのよい林縁部の下草刈りが大変で、これが十分に管理され れば、 都市に住む人間 に取っても快適な都市緑地が形成されて、 都市に住む 人間も生物多様性の仲間入りができます 。 30 万円 ×36 ヘクタール= 1080 万円ですから、 つくば市が 洞峰公園のグランピング施設を追い出すために毎年 1 億 5 千万円も の資金を 使うのであれば、その 15 分の 1 の費用 で、都市住民に取って もっと 効果的 な生態系の保存が可能になります 。
参考文献
守山弘著「自然を守るとはどういうことか」人間選書、農山漁村文化協会
(1988/2/1)
石川幹子 講演録 「今こそ骨太の将来像を」緑地は貴重な社会資本
「常磐新線 Vol. 6 」 発行 つくば市,編集 常磐新線推進室
(1995/2/5)
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